新型コロナウイルスのワクチン接種について
【新型コロナワクチンの種類と接種予定】
米国ファイザー/ビオンテック社の(BNT162b2)とモデルナ社の(mRNA-1273)という、m(メッセンジャー)RNAワクチン、英国アストラゼネカ社の(AZD1222)というウイルスベクターワクチンの3種類が予定されていますが、ファイザー/ビオンテック社のワクチンが先行して接種開始される予定です。ファイザー/ビオンテック社のワクチンは3週空けて2回接種、モデルナ社とアストラゼネカ社のワクチンは4週空けて2回の接種です。自己負担は無料です。田辺市の医療従事者には3月初め頃より接種が開始され、その後、65歳以上の高齢者、続いて基礎疾患のある方、高齢者施設従事者、一般の方々に接種が開始されます。高齢者には実施主体である田辺市より3月頃案内が送付される予定です。外科内科辻医院では対象スタッフの7割が3月の医療従事者枠での接種を申し込んでいますが、3割は辞退しています。多くはありませんがアナフィラキシー等の重篤な副作用が認められる為、スタッフへの接種の強制は出来ません。また、変異株への有効性が低下している懸念もありますが、接種して重篤な副作用が出る可能性と新型コロナウイルスに感染して重症化する可能性を比較すると、重篤なアレルギー反応の既往が無い人は是非接種すべきであると私は考えます。
先行して接種開始されるmRNAワクチンについて国立国際医療研究センター感染症医の忽那賢志先生の記事を参考に以下に要約して紹介します。巷の噂に惑わされず、正確な情報を基に、自身が接種すべきか否かご判断頂きたいと思います。
【ワクチンの効果】
2つのmRNAワクチンは大規模ランダム化比較試験によって、どちらもプラセボ群(偽薬:生理食塩水使用)と比較して90%以上という非常に高い効果が示されています。
ちなみにワクチンの予防効果90%とは、「90%の人には有効で、10%の人には効かない」 または「接種した人の 90%は罹らないが、10%の人は罹る」という意味ではなく、「ワクチンを接種しなかった人の発症率よりも接種した人の発症率のほうが90%少なかった」という意味であり、言い換えると「発症リスクが、10分の1になる」と言えます。
例えば、最も効果が高いワクチンの一つとしては麻疹ワクチンが挙げられ、予防効果は95%と言われています。一方、インフルエンザのワクチンは、一般的には50%程度の予防効果です。すでに人口の2割がワクチンを1回接種したというイスラエルでは、接種から7日以内に感染が確認されたのが4484人、8日から14日以内が3186人だったのに対し、15日から22日経過した人では、感染者数は353人だったとのことですので、1回の接種でもある程度の効果は見込めるようです。
【感染時の重症化を防ぐ効果】
ワクチンの効果には、感染を防ぐ効果とは別に「重症化を防ぐ効果」も期待されます。
感染を防ぐことはできなくても、ワクチン接種で重症化を防げるようになれば、非常に大きな価値があります。
ファイザー/ビオンテック社ワクチンでは重症化した10名のうち1例がワクチン接種群、9例がプラセボ群、モデルナ社ワクチンでは重症化した30名のうち0例がワクチン接種群、30例がプラセボ群となっており、重症化を防ぐ効果もあると言えます。
【高齢者・基礎疾患のある方への有効性】
新型コロナで重症化リスクが高いとされている、高齢者、基礎疾患のある人での有効性は、ファイザー/ビオンテック社のワクチンは「65歳以上のワクチン有効率94.7%」、モデルナ社のワクチンは「重症化リスク群のワクチン有効率90.9%、65歳以上のワクチン有効率86.4%」と発表されており、重症化リスクの高い人でも効果が期待できます。
【ワクチンの安全性】
どちらのmRNAワクチンも基本的には安全性に大きな問題はないと考えられます。
しかし、どんなワクチンであっても100%安全なものはありません。
軽微はものも含めるとほとんどの人になんらかの副反応は起こると考えられます。
最も頻度が高い副反応は注射した部位の痛みで、どちらのワクチンも6-9割くらいの人で痛みを訴え、特に接種後12~24時間は痛みが顕著。さらに、臨床研究に参加した人の約1%が「重度の」痛みであったとのことで、インフルエンザワクチンなどと比べてもかなり痛いワクチンだと思われます。
またワクチンを接種した部位はしばらく赤く腫れ、しこりができることがあります。
だるさや頭痛も比較的一般的な副反応のようですが、高熱が出ることは多くはないようです。
これらの副反応は一般的に数日以内に消失し、解熱薬にも反応します。
一般的に、副反応は高齢者よりも若年者の方が多く、2回目の接種では1回目よりも多くの副反応が起こるようです。
また、こうした副反応は具合の悪い高齢者の方にはときに危険となることもあるようです。
ノルウェイでは、衰弱した80歳以上の高齢者がワクチン接種後に発熱、嘔吐、下痢などの症状を訴えた後に亡くなられる事例が増えていると言われています。
衰弱した高齢者では接種するかどうか慎重に判断した方が良いかもしれません。
【ワクチン接種によるアナフィラキシー反応】
最も懸念される副反応はアナフィラキシー反応などのアレルギー反応です。
臨床研究ではワクチン接種群がプラセボ群と比べて特にアレルギーが多いというわけではありませんでしたが、アメリカやイギリスで接種が始まってからアナフィラキシーの事例が報告されています。
アナフィラキシーの原因と考えられているのは、両方のワクチンに含まれているポリエチレングリコール(PEG)と呼ばれる物質です。アメリカ疾病管理予防センター(CDC)はPEGやポリソルベートなどのPEG誘導体にアレルギーのある人はmRNAワクチンの接種を控えるよう推奨しています。
実際にアナフィラキシー反応がどれくらいの頻度で起こるのかについてですが、アメリカで190万人に1回目の接種をしたところ21人にアナフィラキシー反応が起こった、とのことです。つまりおよそ10万人に1人にアナフィラキシー反応が起こる計算になります。
(注:最新データではファイザー/モデルナ社ワクチンのアナフィラキシー反応の頻度は20万人に1人となっています)インフルエンザワクチンなど一般的なワクチンのアナフィラキシー反応の頻度は「100万人に1人」程度とされていますので、それと比べると頻度は高いと言えるでしょう。
しかし、例えばペニシリンという抗生物質では5000人に1人くらいの頻度で重度のアレルギー反応が起こるのと比べると、決して頻度が高いわけではありません。
71%の人が接種15分以内、86%の人が接種30分以内にアナフィラキシー反応が出現しており、ワクチン接種後30分程度は慎重に様子を見るようにしましょう。
アレルギーをお持ちの方は、接種するかどうか医師と相談して決めるようにしましょう。
現時点でワクチンの副反応の全てが分かっているわけではなく、特に長期間経過してから明らかになる副反応については今後明らかになる可能性もあります。
しかし、その他の予防接種では、重篤な副反応は通常投与後数日から数週間で起こるものであり、長期間経過してから現れる副反応は稀です。
【ワクチンの効果持続期間】
ワクチンの臨床研究は2020年の夏以降に実施されているものですので、どれくらい効果が持続するのかについては情報がありません。
モデルナ社のワクチンの第1相試験のデータからは、中和抗体が4ヶ月間持続していますが、実際の予防効果については分かりません。
今後、追加接種が必要なのか、いつ打つべきかについても分かっていません。
【無症候性感染の可能性】
ワクチンを接種して防げるのは感染そのものではなく、症状が出ることを防げるだけで感染はしてしまうのではないかという懸念は残っています。
ワクチンが無症候性感染をも防ぐことがはっきると分かるまではマスクの着用、3密の回避、こまめな手洗いは継続する必要があります。
【接種対象年齢】
現時点では小児に対するワクチン接種は推奨されません。
ファイザー/ビオンテック社のワクチンは16歳以上、モデルナ社のワクチンは18歳以上の患者を対象に臨床研究が行われており、国内での承認もまずはこの年齢層が対象になると考えられます。
【ワクチン接種が優先される基礎疾患】
厚生労働省ではワクチンの優先接種対象者を協議しており、医療従事者、高齢者、基礎疾患を有する方を優先することを決定しており、また高齢者等が入所・居住する社会福祉施設などの職員も高齢者に次ぐ接種順位とすることが協議されています。
ワクチン接種が優先される基礎疾患とは、
慢性呼吸器疾患、慢性心疾患、慢性腎疾患、慢性肝疾患、神経疾患・神経筋疾患、血液疾患、糖尿病、疾患や治療に伴う免疫抑制状態(悪性腫瘍、関節リウマチ・膠原病、肥満を含む内分泌疾患、消化器疾患、HIV感染症など)などが検討されています。
新型コロナワクチン接種を国は「推奨」は出しますが「義務」ではなく、必ず接種をしなければならないわけではありません。
ワクチン接種をするかどうかは個人個人の判断に委ねられます。
ご自身の年齢、基礎疾患から接種によるメリットとデメリットを天秤にかけ、メリットが上回ると判断したときに接種するようにして下さい。